<平成22年度機械クラブ>
「若手研究者はいま」講演会(報告)
 開催年月日 : 平成22年11月27日(土) 15:00-17:00 
 開 催 場 所  : 工学部5W-301講義室 

 山本 英子 講師と塩澤 大輝 助教を講師に迎えて,恒例の「若手研究者はいま」講演会が開催されました。また,講演会終了後は講師のお二人も参加され,LANS-BOXで和やかな雰囲気のもとで懇親会が開催されました。

◆講演T:自然言語処理の設計工学への応用
            (講師:神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 山本 英子 講師) )
講演要旨
人間は物事を考えるとき,言葉を使って,考えをまとめ,さらに人に自分の考えを伝えます.これは,設計においても例外ではなく,言葉は創造的な人工物を考案する際に重要な役割を演じます.この考えのもと,私は,自然言語処理と設計工学の融合領域を開拓すべく,現在,機能のデザインを支援するための語彙体系の構築に関する研究を進めています.今回の講演では,この研究について紹介させていただきました.
昨今の製品開発の潮流は「どうつくるか」ではなく「なにをつくるか」に移り変わってきています.そして,この「なに」とは製品が備える「仕様」や「機能」であると考えます.このことから,設計においても斬新な機構を考案することもさることながら,斬新な機能を創出することが重要な課題であると考えます.従来の工学設計では要求機能を詳細化過程により分解し,機能構造が決定されます.しかし,これは「どうつくるか」に対する支援にはつながりますが,「なにをつくるか」に対する支援にはなりません.「なにをつくるか」という問いに答える為には要求仕様そのもの(機能)を生み出す(デザインする)ことが必要であると考えます.そこで,機能のデザインを支援することを目的とし,まず,機能の詳細化過程において,機能を記述する言葉に注目し,上位と下位の機能間の写像を可能にするための仕組みを考えました.そして,現在,機能間の関係をそれに含まれる言葉間の関係で捉える方法(図1参照)を提案し,機能詳細化を支援する語彙体系を構築しています.次に,概念合成と言う考えを取り入れ,複数の機能から新しい機能構造図を構築する方法を考えました.デザインや認知科学の研究分野において,概念を合成することで,人は新しい概念を生成することができるといわれています.そこで,本研究では,複数の機能を合成することで斬新な機能をデザインできると考えています.この考え方に基づき,新しい機能構造図を構築する「合成的な機能詳細化」の方法論を提案し,それを支援する語彙体系の構築を行なっています.現在,この方法論で構築された機能構造図を基に,機能デザイン方法論を提案することを目的とし,研究を進めています (図2参照).
最後にこのような機会を与えて下さったKTCM藪会長を始めKTCM会員の皆様に感謝いたします.ありがとうございました.


図1 機能詳細化過程における上位と下位の機能間の言葉による写像

図2 機能デザイン過程の全体図

◆講演U:放射光CTイメージングを用いた疲労損傷観察
            (講師:神戸大学大学院 工学専攻科 機械工学専攻 塩澤 大輝 助教)
講演要旨
材料の破壊機構の解明や信頼性評価に関する研究は,金属顕微鏡,電子顕微鏡,原子間力顕微鏡の開発などのように,新たな観察手法が開発されるごとに飛躍的に進歩してきた.これらの手法を駆使して,これまでに多くの研究が行われてきたが,得られる情報は表面に限られる場合が多い.ところが近年,高強度鋼の疲労において破断繰返し数が1000万回を超えるような超長寿命域においては,材料内部よりき裂が発生する場合が多いことがわかってきたが,一般に鉄鋼材料の内部観察に用いられている産業用X線CT法や超音波イメージング法では,超長寿命域における疲労き裂の起点となる10 µ m程度の介在物や発生直後の内部き裂を観察することができない.
そこで,我々は大型放射光施設(SPring-8)によって得られる高輝度放射光を用いたCTイメージング技術を適用して,金属材料における各種疲労損傷の観察を試みている.SPring-8では,実験室向けX線装置のX線と比較して高輝度かつ指向性が高く,必要な単色X線を分光器で取り出すことができるため,高空間分解能かつ高感度な画像を得ることができる.また,高い平行性を有する放射光では,屈折コントラスト法を利用することにより,高い検出能を実現することができる.
本講演では放射光を用いたCTイメージング法を,内部起点型破壊の原因となる介在物の検出(Fig. 1)やフレッティング疲労き裂の評価(Fig. 2),腐食疲労き裂の発生・進展挙動など,種々の疲労損傷に適用した観察例について紹介した.CTイメージング法によれば,これまでの観察手法では捉えられない内部におけるき裂発生や進展挙動を検出できることや,非破壊的な観察手法であることから現象を連続的に観察することが可能となるなどによって,これまでの疲労研究におけるブレイクスルーをもたらすものと期待される.またCTイメージング技術においても,CTイメージングと応力測定との組み合わせや回折コントラスト法による結晶方位や結晶粒界の測定などの発展が期待される.
最後にこのような機会を与えて下さった,KTCM藪会長を始め本講演会世話人の皆様,またKTCM会員の皆様に感謝の意を表する.